キュッって抱きついて - 1
「ただいまっと」
 まるで日常のような言葉とともに、彼は合い鍵を使い部屋に入ってきた。いつものことながら未だ慣れることのない突然の訪問に声を無くしている私を余所に、冷蔵庫を漁る。
「…お、かえりなさい」
「おう」
 プルタブを開けながら、私にピッタリとくっつくようにして座るから。感じる体温に、淋しさに溜まっていた伝えたいことの色々が、出てこなくなる。
「何だよ」
 じっと見つめたままの私に、彼は缶に口をつけながら少しだけウザったそうな顔をした。そのことに少し傷ついたけれど、それはいつものことだから。何でもないと首を振り笑顔を見せるとと、温かいその体にキュっと抱きついた。
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