嘆きのマーメイド
 光の世界は、死の世界。
 そんなことは生れた時から本能の部分で知っていた。けれど少女は、自分の願望を抑えることが出来なかった。
 はやる気持ちを抑え、ゆっくりと海を昇る。
 深く、暗い世界の中で、遥か彼方にあるその白い光は、少女にとって夢や希望であった。見上げればキラキラと輝く、届きそうで届かない光。それをこの身に浴びることが出来たら、この手に触れることが出来たら、どれだけ倖せか。
 光の世界を垣間見た人が言うには、そこは普段白い光で充たされた青色の世界をしているらしいのだが。ごく稀に光は朱くなり、また世界も朱く染まるという。
 一体、そこはどんな景色なのだろう。想像しただけで、少女の胸は苦しいほどに詰まった。しかしそれは、決して心的なものから感じていただけではなかった。
 濃い蒼が淡い青に変わり、白い光が近づく。
 少女の体が上昇してゆくに連れて、その胸は、全身は、膨らんでいった。
 きゅっと結んだはずの口からは空気が漏れ。その小さな泡は、不恰好な少女を嘲笑うかのように螺旋を描いて舞い上がっては、光の世界へと消えていった。
 その泡を恨めしそうに睨みつけながら、少女は苦痛を堪えると速度をあげた。
 光を掴むため、手を伸ばす。
 あと、10メートル。
 7。
 5。
 よん。
 さん。
 に。
 いち。
 心の中でカウントは、いつしか音の無い声となって口から零ていた。そして。
「ぜろ」
 最後の声は音となり、少女は光の世界へと身を投げた。
 視界に飛び込んできたのは、何処までも続く、眩しいくらいに青い世界。
 きっと届くと思っていた光は、更に深く、遠く。
「晴れた、海」
 光の強さに目を細めながら手を伸ばした少女は、その呟きだけを静寂に残し。
 破裂した。
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