汚れのない罪
 生まれた時から孤独だった。
 だが、淋しくはなかった。
 生きる目的があったからだ。

 アイツを殺せ。

 この世界のどこかにいる敵を
 倒すためだけに、俺は生まれた。

 初めてアイツを見たときは、
 心が躍った。
 それまで、夢でしか無かった目的が
 実体化して現れたからだ。

 アイツは手強かった。
 それでも、何度か瀕死の状態まで
 追い詰めることは出来た。

 だが。
 あと一息のところで誤算は起こる。

 殺そうとすると、何故か手が止まるのだ。
 理由は分かっている。
 コイツを殺せば、俺は生きる理由を失う。
 正義を倒せば、悪は必要なくなる。

 それならば、普通、に過ごせばいいと
 誰かは言うかもしれないが。
 生まれたときから悪であった俺が、
 今更、普通、などになれるはずがない。

 確かに、普通、に憬れたこともあった。
 しかし、俺を見た普通の奴等は、
 俺を見るといつも逃げ出した。
 そしてアイツに助けを求めた。
 俺は、まだ何も、していないのに。

 だから。
 そんなに望むなら、と。
 俺は自分に与えられた運命を受け入れ
 それを極めることを選んだのだ。
 それを今更。普通になど。

 そう思うと、アイツを殺すことは出来なくなった。
 きっとアイツも、それが分かっているから、
 俺を殺さず、追い払うだけに留めるているだろう。

 しかし、争いを止めることは出来ない。
 それが俺たちに与えられた運命だからだ。
 俺は生まれたときから悪で。
 アイツは生まれたときから正義で。
 そう決められて生まれてきたものは、
 死ぬまでそうあるしかないのだ。

 だから、明日も。
 俺たちはきっと、無意味な争いを繰り返すのだろう。
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