夕立の庭 - 2
 彼女と2人並んで、無言のまま、墓を掘る。シャベルが見つからなかったから、自分の手で、土を掘った。シャベルがなかったからってわけじゃない、か。在ったとしても、きっと使わなかっただろう。
 どんなに一緒に居たいと思っていても、別れは必ずやって来る。そんなこと、こんな身体になった時点で理解っていた。でも、まさか取り残される方になるなんて、思わなかったかな。
 生きた別れは、両方とも辛いけど。死んだ別れは、残された方だけが辛い。死んでしまったものは、残された方の気持ちなんて知らないのだから。それもまた、死後の世界が在るとしたら別なのかもしれないけれど。……慰めだ。
「飼い猫だから。あと5年は生きられたはずなのにね」
 冷淡な口調で、彼女が言う。でも、横目で見たその眼は、緋くなっていた。多分、涙を堪えているのだろう。そして、オレが泣き出すのを待ってる。こういう時、泣くのはいつもオレの役目だから。
 だけど、オレは泣けなかった。哀しい気持ちがないわけじゃないけど、何処か、彼の死に納得していた。仕方がない、そんな言葉が浮かぶ。
「そうだな。でも、仕方がないさ。みんな、いつかは死ぬんだ」
 オレだって、お前だって。早いか遅いかの違いはあれ、みんな死ぬんだ。
 声には出さず、土を掘る。
「冷たいね」
「事実だよ」
「だから冷たいって言ってんの」
 少し、怒ったような口調。哀しみを怒りに摩り替えようとしてるのだろう。勢い良く土を掘る彼女に、オレは苦笑した。
 と。
「っ……」
 小さい声を上げ、彼女が土から手を引いた。
「どうした?」
「石かなんかで、切っちゃったみたい」
 中指を、血を絞り出すように左手で押さえる。土まみれの指先からは、微かでは在るが緋い色が見て取れた。
「消毒しないと」
「待って」
 慌てて立ち上がろうとするオレの手を、掴む。
「だけど、このままだと…」
「いいの。彼を埋めて上げなきゃ」
 自分に言い聞かせるように言うと、彼女は左手だけで土を掘り始めた。哀しみも怒りも、閉じ込めたような顔で。
 こうなったら。彼女の意思を変えるのは難しい。
 オレは、仕方ないな、と声には出さず呟くと、出来るだけ早く彼を埋めてあげようと土に触れた。
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