whiteout - 1
「…っ」
 窓を開けると同時に、オレは眩しさに目を細めた。そのまま暫くしてから、ゆっくりと瞼を開ける。そこに、オレの目の前に広がっていたのは一面の白銀世界。どうやら昨日降っていた雪が一夜にして積もったらしい。
 オレは窓から真っ白に何処までも続いていきそうな地平を見渡した。オレの住んでいる所は田舎で、しかもオレの部屋は二階。だから、このずっと先まで見渡すことが出来る。ハズなんだけど…。
「なんにも、見えねぇや」
 オレの目の前に衝きつけられた景色は、ただ白く、そこには何も存在していないかのような錯覚すら起こさせるものだった。こうやって見てみると、空も陸も境界線がわからない。まるでオレひとりが宙に浮いているみたいだ。
「天も、地も、境が無いんだったら、オレは死ななくてすむのかな…」
 ぼんやりと、今自分に向けられている事実にそれを重ねてみた。だけどそんなことはあるはずがない。死んだら、もう、戻れない。
「……寒っ」
 突如、窓から入ってきた冷たい風によって、オレは自分がまだ寝間着のままだということを思い出した。
「なにやってんだ、オレ」
「雪国で窓を開けっ放しにするのは自殺行為だよ」
 呟くオレの声に重なるように、彼女は部屋に入ってきた。
「な…何でお前がここに居るんだよ」
「ここに居ちゃ悪い?」
「そうじゃなくて、どっから入ってきたんだ?」
「どっからって…玄関から。おばさんに呼ばれたの」
「………」
「それより、あんたこそ、何自分の世界に浸ってるの?」
「別に…浸ってなんか…」
「ねぇ、そっから何か見えるの?」
「だから、違うって」
「嘘。じゃあ、何してたの?」
「そ…それは…」
 今まで自分が考えていたことを言えるはず無い。彼女は何も知らないのだから。でも、だからといって、答えないわけにもいかない。こんなこと、わざわざ見逃してくれるような優しい性格を彼女は持ち合わせてはいない。
「…どれどれ?」
 答えにつまっているオレをみて、彼女は自分の目で確かめようと窓に近づいた。ただ見るだけならよかったんだけど…。そのとき、オレの肩に手を置いたりなんかするから…。
「わっ、バカ、押すなっ。…わぁっ!!」
「あ」
 バランスを崩したオレは、見事に背中から雪の降り積もった地面へと落下してしまった。
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