それは、ただの。

「ほら、あそこ」
「どこ?」
「あそこよ。向こうの傾いてる電柱のとこ」
「確かにちょっと斜めってるね」
「それだけ?」
「そんなこと言われたって、私はアンタみたいに霊感強くないから」
「強くないっていうかゼロよね」
「うるさいな」
「でも霊感強い人と長く一緒にいると、霊感強くなるっていうのにね」
「ゼロだから増えようがないのかも」
「なるほど」
「ひっどーい!」
「自分で言ったんじゃ――」
「どうしたの?」
「来る」
「何が?」
「お化けよ。こっちに。何してるの、早く逃げないと!きゃあっ!」
「えっ?」
「あ、あんたの、隣。今、肩、掴んでっ」
「ああ、この人はお化けじゃないよ。私と同じ、ただの死んだ人間」
「――えっ?」

2010.07.06.
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