腕 - 2
 ホラー映画で観るような、白い、腕。
 それは何かを掴もうとしているかのように、ピンと伸ばした状態で固まっていた。
 見た瞬間、ひ、と小さく声を漏らしたけれど。だからといって腕が動くわけでもなく、誰かが助けに来てくれるわけでもなく。
 仕方が無いので、怖がるのをやめることにした。
 引っ越すお金も無いし、避難させてくれるような友達もいないし。
 情けない話だとは思うけれど、私にとっては幽霊だとかなんだとかっていうより、出費の方が怖い。
 冷静になってみれば、少し邪魔にはなるけれど、なかなか良いインテリアだと思う。
 とはいえ、突然動き出したり襲われたりしたのではたまらないから。試しに、ハンガーで突付いてみた。
 変化なし。
 次に、霧吹きで水を。
 これも、変化なし。
 ようやく一安心して、腕に触れる。
 思いがけず、柔らかく、温かい。その白い色さえなければ、普通の人間の腕と変わらないと思った。
 害が無い、と思った途端。霧吹きで濡れているその腕がなんだか可哀相になってきて。タオルで水気を丁寧に拭った。
 大きく、溜息を吐く。
 冷静でいたつもりでも、どこかで緊張していたのかもしれない。壁にもたれた私はそのまま動けず、ただ呆っと時計の秒針を眺めていた。
 すると突然、目の端で白い何かが動いて――。
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