失われた物語 〜His Voyage〜 1

 この海の先には大きな大陸があって、そこでは季節が逆転している建物が幾つも在るらしい。
 季節が逆転してる?どういうこと?
 夏なのに家の中は冬のように寒いんだ。逆に冬は、初夏のように暖かい。
 なにそれ。魔法?
 機械、という道具が大陸には沢山あって、それが世の中を過ごしやすくしてくれるんだって。
 キカイ。
 そう、機械。その中にはとても早く走る車だってある。馬が引くんじゃない。誰にも引かれないで馬よりも早く走るんだ。
 想像するのが追いつかないわ。でも、なんかの魔法の国みたい。
 そうさ、魔法の国だ。大陸には色々な肌の色や髪の色をした人たちが色々な服を着て生活している。夜も明るくてまるで毎晩パレードだ。
 でも、なんでそんな話知ってるの?
 父ちゃんが船を作りながら目を輝かせて言ってたんだ。父ちゃんも父ちゃんの父ちゃんから聞いた話らしいんだけどな。なんか、じいちゃんだかひいじいちゃんだか、もっと前かもしれないけど、オレんとこの誰かが一度大陸の人に連れられていったことがあるらしい。
 そういえば、あなたのお父さまって。
 ああ。舟を作ってそのまま。大陸に着いたのか、それとも、途中で。それは分からない。けど。
 けど?
 オレも大陸にいってみたいと思うんだ。この腕で、大陸の奴等も驚くような立派な船を作って。
 けど、あなたのお父さまは。
 父ちゃんも、じいちゃんも、結局は夢を達成できなかった。だから今度こそ。オレこそが、大陸に行って、その魔法を持って帰ってくるよ。
 面白そう。ねぇ。その時は私も一緒に連れてって。私も見てみたい、その魔法の国。
 ああ。何年かかるか分からないけど。舟が完成したらその時は一緒に行こう。約束だ。
 うん、きっとだよ。


 ――ああ、きっと。

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