キュッって抱きついて - 2
 彼が部屋を訪れたのは、3週間と少しぶりになる。
 元々気まぐれな性格なのに。その上、私は彼の大切な人じゃないから。こうして彼がふらりと現れるのをただ待つことしかできない。
 でも、それでも良いのだと、彼の寝顔を見つめながら思う。
 彼の居ないときに、次に彼が来たら何を話そうかとか、してあげようとかとか。そんなことに想いを巡らす時間は楽しいし、会ったときにそれが全て無駄になるのはこの上ない贅沢だと思う。
 想うことが許されているだけじゃなく。こうして一時でも傍にいて、一瞬でも触れ合うことが出来て。それだけで、もう充分に私は倖せなんだと。
 彼の寝息を聴きながら思う。のに。
 目覚めに、自分の隣に空白があると、どうしようもない程の切なさがこみあげてきてしまう。誰かに、私だけをずっと見ていて欲しい、と。普段は息を潜めている願望が、否が応にも顔を覗かせる。
 本当ならその相手は、彼が望ましいのだけれど。そんなことはきっと無理だから。
 他の誰でもいい。彼との今の関係から、私を連れ去って欲しい、と。温もりも匂いも消えてしまった空白を見ながら、切に思ってしまう。
 けれど、それを思うのはほんの僅かな時間で。夕暮れを迎える頃にはまた、彼に想いを馳せては倖福を感じている自分が居る。
 もうずっと、それの繰り返しの日々。
 いつ抜け出せるかも知れない関係だけれど。それでもきっと今、私は倖せなんだと思う。思いたい。
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